
石畳のどこかに、穴があいていた。
気がついたら、アリスはローマにいた。地図もなく、言葉もわからず、ただ石畳の道が続いている。どこへ行けばいいのかわからないまま、アリスは歩き出した。

最初に出会ったのは、夕焼けの色だった。オレンジでも赤でもない、その両方が混ざったような光が、路地全体に流れていた。ローマサンセット、と壁に書いてあった。アリスはその色をポケットにしまった。

次の角を曲がると、古びた赤い壁があった。看板でも絵でもない、何百年も前からそこにある赤だった。ボルゴロッソ、と石に刻んであった。アリスはまたポケットにしまった。

夜になると、空が急に深くなった。遺跡の上にかぶさってくる青黒さは、ミッドナイトコロッセオという名前だった。少し怖かったけれど、きれいだった。

朝が来た。川の水面が宝石みたいに光っていた。サファイアティベリス。濁った川が、朝だけこんなふうに光るのだとアリスは知った。

雨上がりの空は、ヴェネツィアブルーだった。ローマなのに、ヴェネツィアの色がやってくることがある、とだれかが教えてくれた。

最後に、古い教会の石の中に、紫がかった色を見つけた。ヴィオラロマーナ。アリスはポケットから全部の色を取り出して、並べてみた。ローマの色が、六つ、手の中に揃った。
帰り道は、まだ見つかっていない。
あなたはどの色を、手に取りますか。
執筆:細野カレン(なないろ毛糸 店長)














