コットン毛糸の不都合な真実

コットンと一口に言っても、その種類は多種多様。

ウールに、メリノなどの品質を示すランクがあるようにコットンにも品質ランクがあります。

このランクを僕たちにわかりやすく示してくれたあるエピソードを紹介しましょう。

ツェンカさん来社

ドイツの毛糸メーカーの営業スタイルは、まだまだ古き良き時代のスタイルを色濃く残しているようで、どのメーカーの営業さんも僕たちのような零細企業にも足繁く通ってきてくれています。

トレッキングでお馴染みのAtelier Zitronもそんなメーカーのひとつで、新商品が出るたびに遠路はるばるやってきてくれています。

はじめの頃は、社長のツィトロンさんが巨体を揺らしながら来ていたのですが、最近は次期社長の娘婿ののっぽのツェンカさんが、たくさんの毛糸を抱えてやってきます。

新商品が発売されたある年の春の日、いつものようにやってきたのっぽのツェンカさんと挨拶を交わして、さてどんな商品が出るのかなぁ...とワクワクしていた僕たちですが、その後の彼の挙動にあっけにとられることになったのです。

いきなり毛糸を毟り始めるツェンカさん

挨拶もそこそこに周りを見渡し始めたツェンカさんの目に留まったのは、僕たちがそのシーズンに売り出そうとしていたある大手メーカーのオーガニックコットン毛糸。

おもむろにその毛糸を手にしたツェンカさん、のっぽの体には似合わない優しい指先で糸口を見つけたかと思うと...


毟り始めました


(@_@)



まったく意味不明な行動に言葉を失いましたよ。

ひとしきり毟り取った後は、今度は自分のバッグから可愛らしいドーナツ巻の毛糸を取り出すと...


また、毟ってるし (笑


いったい何が起きてるんでしょうかね、この展開は。

ツェンカさん語る

二つの毛糸玉から毟り取った二束の繊維を手にしたツェンカさんが語り始めたのは、

彼の義理の父親がいかにしてアメリカ南部のコットン・フィールドにたどり着いたのか、

なぜそのフィールドの綿花だけを使ったコットン毛糸を作ることになったのか、

それには、どれだけの長い年月が必要だったか、

そういった話でした。

そして、そのすべてを実証するのが彼が手にした二束の繊維だったのです。

短繊維と長繊維

二つの毛糸から毟り取った繊維をそっと机に置いた彼が説明を始めます。


見てごらん

繊維の長さが違うのが分かるよね

はっきり言って、このメーカーの毛糸は〇ズ繊維の寄せ集めだね


吐き捨てるように言った彼が説明を続けます。

コットン繊維の品質に決定的に影響を及ぼすのが、繊維の長さなんだそうです。

長ければ長いほど、繊維同士のつなぎ目が少なくなるため艶やかで肌触りの良い毛糸繊維になります。

また、もっと重大なことは、編地にした時に短い繊維の編地は、編地自身の重さによりだらーんと伸びたりヨレてしまうのだそうです。

想像してみてください。

あなたが丹精込めて編んだサマーセータの裾や袖口が伸びてしまったら...

悲劇ですよね。

嘘だらけのコットン毛糸販売

コットン毛糸に関しては、当時、世界三大コットンが何か程度の知識しか持っていなかったので、ツェンカさんの話を聞いてから少しずつ勉強してきました。

そして、大手毛糸メーカーでさえ、日本でも海外でも、手編み毛糸業界が繊維の長さなど品質に関しては全く無頓着なことが分かってきました。

(ちなみに、服地の繊維メーカーさんなどは、この点について大変造詣が深く情報発信も積極的にされています)

また、多くの毛糸販売店が誤った情報を垂れ流しながら販売している実態があることも知りました。

例えば、よくある例ですが、商品説明に「オーガニックだから肌触りが良いです」とありますが、オーガニックコットンも普通のコットンも綿花のレベルでは専門家でも区別がつかないそうです。

もちろん、オーガニック素材は高価ですから、毛糸にする際によりコストをかけて製品化することにより肌触りの良さを出しているかもしれませんが、前述した通り、肌触りに決定的な違いをもたらすのは繊維の長さです。

また、「オーガニックコットンは残留農薬がないのでアレルギーの方にも安心」というのもよく見かけますが、オーガニックでも普通のコットンでも、今の時代に人体に有害なほどの残留農薬が付いたまま市場に出回るようなことはありません。

オーガニックかどうかは関係なく製品を生産する過程での品質管理の問題です。

オーガニック栽培で農薬の使用を制限しているのは、アレルギーなど最終消費者への配慮が主目的ではなく、環境汚染、農民、労働者の健康や人権に配慮するためです。


・・・。。。・・・


このように、オーガニックであれば品質が良いという売り手の安易な考えが、そのまま宣伝文句として使われてしまっているのが実情です。

もちろん、オーガニック栽培自体は素晴らしいことです。

そして、僕自身オーガニックコットンがもっともっと使われるようになればと願っている一人です。

ですが、編み物用毛糸については、単にオーガニックだから品質が良いというわけではないんです。

Echt(エヒト)について

冒頭に紹介したエピソードで、ツェンカさんが持ってきた新商品がコットン100%の毛糸「Echt エヒト」でした。

2019年の春のことでした。

Echtとはドイツ語で「本物」という意味です。

かなり意味深なネーミングですが、裏返せば如何に「偽物」が出回っているかを物語っていますね。

こんな毛糸です

素材:アメリカノサウスカロライナ州産コットン 100%
・遺伝子組み換えなし
・オーガニック栽培
・長繊維

生産国:エコテックス®スタンダード100 製品クラス1に従ってドイツ国内で生産

仕様:合太 約 140m 重さ 50g

ラベリーでの投稿作品とレシピ

世界中のニッターさんが集うラベリーにも多くの作品画像やレシピが投稿されています。以下に、ラベリーのページへのリンクを置いておきますので、ぜひご覧ください。

■ 作品画像はこちら
※ラベリーのページを見るにはアカウント登録が必要です。簡単なアカウント登録ガイドを作りましたのでご活用くださいませ。=>Ravelryアカウント開設ガイド

おすすめ

もし、あなたが今年の夏にコットンのニットを編もうと思っているのなら、まずは小さな作品を編んでみるのはいかがでしょうか?

たまたまラベリーを見ていて気が付いたのですが、ヨーロッパのニッターさん達はトップスだけではなく小物類も結構編んでいるみたいですね。

やっぱり、夏が短いヨーロッパだからなのでしょうか?

それからヒントを得たのですが、ポシェットとか手に触れたときに素材の気持ち良さを感じることができる小物を編んで、使って触れてみると素材の良さが分かるんじゃないかなと思います。

それに、もちろんこれだけの良い毛糸ですから、編んでいる時の滑らかさなどもきっと実感できるはずです。

ウールを編むのとはまた違った楽しいひと時を過ごせること請け合いです。

ぜひ、編んでみてください。

「本物」のコットン毛糸を!

執筆者

© 2023 細野淳一 なないろ毛糸 DOITSUYA GmbH

アトリエ ツィトロン エヒト

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