編み物の道具というのは、いつ頃から今の姿になったのでしょうか。輪針が登場したのはごく最近のことですが、5本針の歴史をたどっていくと、思いがけない場所に行き着きます。14世紀ドイツの祭壇画の中に、マリア様が5本針でセーターを編んでいる姿が描かれているのです。
5本針が登場する前の編み物
編み物の起源ははっきりとわかっていませんが、古代文明の遺跡からニットの編地が発見されていることから、数千年前には糸を針で編む技術が存在していたと考えられています。当時の編み針は原始的な2本の棒でした。
By David Jackson, CC BY-SA 2.0 uk, Link
ロンドンのヴィクトリア アンド アルバート美術館が所蔵するエジプト出土の靴下は、4〜5世紀に作られたものです。つま先が二股に分かれているのは、サンダルを履きやすくするためです。ただしこの靴下、実は現代の編み物とは異なる技法で作られています。「ノットレス ニッティング」と呼ばれる1本針を使う技術で、今から1500年以上前にすでにこれほど精巧な靴下が作られていたことは驚くべきことです。
14世紀、輪編みの誕生
2本の棒針による平編みが長く続いた後、14世紀に入って画期的な技法が登場します。5本の針を使った輪編みです。縫い合わせの必要がなく、腕への負担も少ないこの技法は、当時のニッターにとって革新的なものでした。
この新しい技法はすぐに広まり、14〜15世紀のヨーロッパの宗教画家たちがその様子を作品に残しています。

マイスター・ベルトラム, Public domain, ウィキメディア・コモンズ経由で
マリア様と、一つの歴史的な矛盾
ドイツの宗教画家マイスター・ベルトラムが15世紀頃に描いた祭壇画には、5本針でセーターを編むマリア様の姿が描かれています。バスケットに入った3玉の毛糸もしっかりと描かれており、当時の編み物の様子がそのまま写し取られています。
ただし、この絵画には興味深い矛盾があります。描かれているのはナザレのイエスの幼少期の場面、つまり1世紀のことのはずです。ところが5本針が登場したのは14世紀ですから、マリア様が5本針を使うのは歴史的にあり得ないことになります。
おそらく画家は、当時の女性が新しい技法として使い始めた5本針による輪編みの様子を、そのままマリア様の姿として描いたのでしょう。結果として、14〜15世紀のニッターの日常が、宗教画の中に封じ込められることになりました。
素材の変遷
中世の5本針は、木、金属、象牙、骨、竹など様々な素材で作られていました。金属製のものは鍛冶屋が銅線を切って先を尖らせて作っており、大変重いものでした。マイスター・ベルトラムの祭壇画でマリア様が持つ針も、よく見ると現代とは異なるサイズであることがわかります。
その後、5本針は両端が尖った棒という基本的な姿を変えないまま現代に至ります。素材はアルミ、カーボン、プラスティックへと広がり、エルゴノミックデザインを採用したものも登場しています。数百年前に画期的な輪編みの技法とともに生まれた5本針は、今もなお進化を続けています。
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執筆:細野カレン(なないろ毛糸 店長)














