おはようございます、細野カレンです。
近所の小さなバラ園では、清楚な白と深紅の花が咲きそろい、今朝も静かな光の中で凛とした気配を放っていました。一枚一枚の花びらに品格が宿っているようで、その姿に「上質」という言葉が自然と胸に浮かびました。
あなたが日頃、何気なく選んでいる海外の毛糸。
それが、実はどれほど上質で、素肌の上にすっと溶け込むような素材であるか。編み物をされる方でも、あまり知られていないかもしれません。
あるメーカーの社長さんが教えてくださったことがあります。
世の中にある高級ブランドのニットに使われているウールより、手芸用の高級ウールの方が、はるかに上質だと。なぜなら、ハイブランドのニットは多くが“工業製品”であり、ウールもまた、大量生産に適したものが選ばれるから。
けれど私たちが日常の中で手にしているこの糸は、そうした流通とはまったく別の、純粋に質だけで選ばれたウールなのだそうです。
そんな、素材にこだわってつくられた手芸用ウールの中でも、とくに印象に残っている糸があります。
名前は「プロラナ スムース」。
まず目を引くのは、その素材に使われているメリノ・スーパーファインという言葉です。ウールのなかでもとくに繊維が細く、しなやかで、肌に直接触れてもやさしいとされる等級。羊毛としては最上級に近いこのメリノに、さらにベイビーアルパカが加わることで、ただ柔らかいだけではない、芯のあるぬめり感と、編み目の美しさを同時に生み出してくれるのです。
こうした糸を前にすると、触れることそのものが特別な体験になります。たとえば、そっと手を置いただけで、毛足の流れが指先に沿ってやさしく伝わってくるような、そんな感覚があります。
先の社長さんに倉庫を案内されたときのことです。
棚には、さまざまな種類の原料となるウールが、きちんと整えて並べられていて、どれも手に取れる位置に置かれていました。社長さんは、それぞれの触感や品質について一つひとつ説明してくださいました。その途中で、社長さんがふと一つのカセを手に取り、私に渡しながらこう問いかけました。
「これは、どんなウールか分かる?」
とっさのことで一瞬戸惑いながらも、触れた瞬間にわかりました。指先から伝わる繊維の細さと、密度のあるなめらかさ。
すぐに「これは、メリノ……いえ、スーパーファイン・メリノですね」と答えていました。
「よくわかりましたね」
社長は穏やかに微笑み、その日からこのメーカーとの取引が始まりました。
閑話休題。
「プロラナ スムース」で編んだ作品例を見て、最初に感じたのは“軽さ”でした。
たとえば、長袖のセーターがたった8玉、つまり約400gで仕上がってしまうのです。通常であれば600gほどは必要ですから、30%以上も軽いということになります。
けれど、軽いだけではありません。
この糸はふわりと空気を含みながらも、編み地には程よい密度とまとまりがあって、着ていて頼りなさを感じることがありません。肌にふれるたびに「あれ?」と感じるほどのやわらかさと、重ねてもごわつかないなめらかさが、日常の中にすっと溶け込んでいきます。
たとえば、こちらのグラデーションヤーンで編んだセーターのように、シンプルな編み地にも自然な立体感が生まれます。レトロなスクエア模様を取り入れた今風のデザインで、しっかりとしたサイズ感と存在感。それでいて、使われているのはわずか400g。目の前の仕上がりからは、ちょっと信じられないほどの軽さです。
色展開は全8色。
ラズベリーやマンダリンといった果実のような色から、青紫やピーコックブルー、深いグリーンまで、やわらかくも深みのあるグラデーションが、それぞれに異なる表情を見せてくれます。全体に華美すぎず、けれど地味でもない、服にも肌にも自然に馴染む色ばかりです。
使用針は、日本式で17号からジャンボ8mmまで。太めの針でざくざくと編めるので、セーターのような大きな作品も、「編みたい」と思った気持ちが冷めないうちに、かたちにしていくことができます。
どの色で、どんな一枚に仕上げようか。
そんなふうに思いをめぐらせる時間そのものが、編む楽しみの一部になるような糸です。軽くてあたたかいので、セーターだけでなく、カーディガンやショールにもおすすめです。
この糸に使われているのは、スーパーファインメリノとベイビーアルパカという、どちらも高級で稀少な素材です。そのため、生産量そのものが限られており、現在すでに在庫がごくわずかとなっている色もございます。
少し迷っているうちに手にできなくなってしまうこともありますので、「編みたい」と感じた方には、タイミングの合ううちにそっとご覧いただけたらと思います。
あなたが選んだ色が、お手元でどんな一枚に育っていくのか、心より楽しみにしています。
細野カレン