おはようございます。細野カレンです。
神戸の空は、朝から厚い雲におおわれています。まだ雨は降っていませんが、空気はしっとりしていて、足元から静けさが立ちのぼるようです。
そんな朝には、ふと異国の空気を思い出すことがあります。
首都デリーの裏通りでは、早朝の屋台がぽつぽつと動きはじめ、スパイスや土の匂いが、少しずつ空に溶けていくような時間帯です。
きょうは、そんなインドの風景とともに届いた毛糸のお話を、お届けしたいと思います。
宮殿の石畳を、色とりどりのスカートが横切っていきます。淡い日差しに布の色が揺れて、遠目には絵のようにも見えました。
きょうご紹介する毛糸は、絵のようなスカートの色彩が、そのまま毛糸になったような26色です。
いつもの毛糸が悪いわけではありません。けれど、ふと手に取るのをためらう日もあって、そういうときには、何か少し違うものがほしくなります。季節が変わるとき、気分にゆるやかな波があるとき、「これじゃない色」を編みたいと思う気持ちが、どこかにそっと湧いてくるような。
そんなときのために、シンフォニーヤーンズ テラがあります。
テラが染められているのは、ビカネールの郊外にある静かな染色場です。手作業で染められた糸は、わずかな空気や湿度の違いさえ映し取って、ひと束ごとに微細なニュアンスの差が生まれます。
極細のエクストラファインメリノで、防縮加工済み。けれど、まず目を奪われるのは、その色そのものです。透けるように淡い色、心の奥に沈むような深い色、まるで光を宿すようなネオン――テラには、ただ「明るい」「暗い」では測れない奥行きがあります。
きっと、まだ誰も編んでいないその色に、あなたの目がとまる瞬間があると思います。
スタッフが小さなマフラーを仕上げてくれていました。深い黒を選んで編んでくれたのですが、手に取った瞬間、まず驚いたのは、その軽さとやわらかさです。
試しに首に巻いてみたところ、私は少し緊張していたのだと思います。というのも、肌が弱くて、たいていのウール製品は直接肌に触れると、少し赤くなってしまうのです。
でも、これはまったく違いました。首にすべらせた瞬間、そのやわらかさがわかりました。エクストラファインメリノという名前は、こういう感触のことを言うのかもしれません。
しかも、濃い色にもかかわらず、仕上げのブロッキングで色落ちはまったくなく、水ににじまず、そのままの色でしっとりと乾いていったそうです。
丁寧に仕上げられた段染め糸は、その空気のようにおだやかです。
女性たちが仕上げた生地をそっと手に取ったとき、まず感じたのは、その軽やかさでした。深い色でありながら重さを感じさせず、手のひらに広げると、ふわりと空気を含むように柔らかく落ち着きます。
段染めの方は、とくに編み上がった模様が美しく、きちんと計算していないのに、自然に模様が現れていました。それは、色の濃淡やリズムが、編む人の感情にそっと寄り添っているようにも見えます。
“目を揃えなければ”“きれいに整えなければ”という緊張が、いつのまにかほどけているような、そんな感触がありました。
棚に積まれた何枚もの布のひとつに、ふと手が伸びて、めくると、思いがけずやわらかな色が隠れていて、「いまの自分に合うのは、これかもしれない」そんなふうに思う瞬間がありました。
テラの26色も、きっとそれぞれ、そんなふうに選ばれていくのだと思います。“どれが似合うか”ではなく、“どれに手が伸びるか”。
それが、きょうの気分かもしれません。
昨晩、新しい色のことをお知らせしました。すでに選ばれた方もいらっしゃいます。
26の色が、静かに並んでいます。
そのなかに、きょうの気分に合うものが、ひとつでもあれば。
それだけで、十分だと思います。