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誰も教えてくれなかった5本針の歴史

今では、写真の編み針のように「カーボン」というハイテク素材を使った5本針が販売されていますが、5本針というのはいつ頃から使われるようになったのでしょうか?

今回は、5本針の歴史を紐解いていきましょう!

古代の編み物

5本針の歴史を遡る前に、編み物と編み針の歴史を簡単にご紹介しましょう。

編み物の歴史は非常に古いため、その起源ははっきりとわかっていませんが、古代文明の遺跡などからニットの編地が発見されていることから、数千年前には糸を編み針で編むという「編み物」が行われていたようです。

その頃の編み針は原始的な2本の棒であったと推測されています。
By David Jackson, CC BY-SA 2.0 uk, Link

エジプトで発見された古代の靴下


写真は、ロンドンの「ヴィクトリア アンド アルバート美術館」が所蔵しているエジプトで発見された4~5世紀に作られた靴下です。

つま先が分かれているのは、サンダル履きしやすいように作ってあるんです。

古代のエジプト人が描かれた壁画などを見ると、ほとんどの人が裸足ですが中にはサンダルを履いている人も描かれています。

どのような人が靴下を履いてサンダル履きをしたのでしょうか?

それはまたの機会に譲って先を急ぎましょう。

実は、最近の研究ではこの靴下は現代の「編み物」ではなく、デンマーク語で「Nålebinding」英語では「ノットレス ニッティング」という1本の針を使う技術で作られていることが分かっています。

何れにしても、今から1500年も前に、既にこのような靴下が作られていたなんて驚きですよね!?

5本針の出現

さて、前述したように古代の編み物は2本の棒と1本の糸で行われていましたが、14世紀に入って画期的な編み方が登場しました。

それは、輪編みの技法です。

それまでは、2本の編み針を使っていたため平編みしかできませんでしたが、5本の針を使って「輪に編む」技法が発明されてから、より簡単に速く編むことができるようになりました。

輪編みは、腕に負担がかからず縫い合わせる必要がないなど多くのメリットがあるのは、あなたもご存じの通りです。

マリア様と5本針

マイスター・ベルトラム, Public domain, ウィキメディア・コモンズ経由で
上の絵画は、ドイツの宗教画家のマイスター・ベルトラムによって15世紀頃に描かれた祭壇画です。

主イエスがマリア様と幼少期を過ごしたナザレの自宅に、天使(向かって左側)が訪問してきた様子が描かれています。

中央に横たわって本を読んでいるのが幼い主イエスキリスト、そして左側になんと「5本針」でセーターを編んでいるマリア様が描かれています。大きさから言って主イエスの物の様です。

バスケットに入った3玉の毛糸もしっかりと描かれています。

実は、この絵画には重大な歴史の誤認があるんです。宗教画なのでこういった解釈はすべきではないのですが、今回に限っては「5本針の歴史」を紐解く目的でこの絵画を見ているのでお許し願いましょう。

誤認とは、この絵画が「ナザレのイエス」を描いたものであれば、その時代は1世紀ということになり、五本針がこの世に出る1300年も前になります。

ですから、マリア様が5本針を使うということはあり得ないんですね。

マイスター・ベルトラムら14-15世紀に活躍した多くの宗教画家が、マリア様が「編み物」をする様子を多く描いています。

これは僕の推測に過ぎないんですが、マリア様の母性や庶民性を描くために編み物をする女性をモデルにしたのではないかと思います。

画家たちが編み物をしていたとは考えられないので、当時の女性が画期的な技法として登場した「5本針」による輪編みをする様子をそっくり写し取ったので、マリア様が5本針を使って輪編みすることになってしまったのでしょう。

それにしても、こうして5本針でセーターを編むマリア様がはっきりと描かれているなんて感激してしまいませんか?

中世の5本針

古代から中世では、5本針は様々な素材で作られていました。


金属(銅や鉄)
象牙



中世では、5本針の多くは鍛冶屋によって銅線を切って先を尖らせて作られていました。

金属なので大変重く、しかもセーターなども輪編みできるように長いサイズの5本針も作られていたようです。

先にご紹介した祭壇画のマリア様の持つ5本針も、よく見ると現代ではないサイズの5本針であることが分かります。

当時の女性にとって編み物は重労働だったのかもしれませんが、少なくとも5本針の登場で2本の棒針で編むより労働が軽減されたと思いたいですよね。

現代の5本針

その後、5本針は両端が尖った4または5本の棒という基本的な姿を大きく変えずに現代に至りますが、使い易さを考慮した工夫がなされたり、ハイテク素材の採用など進化を続けています。

今では、




アルミ
カーボン
プラスティック

といった様々な素材でできた5本針があります。

数年前には、addiから両端に標準とレースという尖り方が異なる針先を備えたコリブリという5本針が発売されました。

また、材質も針先もこれまでの常識を覆したPrymのエルゴノミック編み針の登場は記憶に新しいところです。

数百年前に画期的な輪編みの技法と共に登場した5本針ですが、これからも革新的な技術や素材の登場によって、あなたをはじめ世界中のニッターさんを驚かせてくれるかもしれません。

執筆者

© 2023 細野淳一 なないろ毛糸 DOITUSYA GmbH

5本針

なないろ毛糸では様々なメーカーと材質の5本針を取り揃えています。

きっとあなたのお気に召す5本針を見つけることができるはずです。

5本針も大きく進化していますので、ぜひあなたも最新の5本針で楽しい編み物生活を送ってくださいませ。